
湯シュラン、初の三ツ星21施設を発表。湯そのものを評価する新しい格付け
温泉宿を選ぶ基準は、料理、おもてなし、眺め、建築や客室と人それぞれで、そうした魅力で宿を選ぶランキングや人気投票もたくさんあります。ところが、宿の「お湯そのもの」を知って比べるための共通のものさしは、これまでほとんどありませんでした。そこに踏み込んだのが、新しい格付け湯シュランです。評価するのは、浴槽に届いた湯と、源泉からお風呂までの届け方や管理、そして湯をとりまく景観や歴史、文化。今日の午後、初めてのアワードで、最初の三ツ星認定となる21施設が発表されました。
名前からあの有名なレストランガイドを思い浮かべる人も多いと思いますが、湯シュラン自身はミシュランガイドとは関係がないとしています。料理のたとえは湯シュランのものです。源泉は「海で泳いでいる魚」、浴槽の湯は「食卓に出された魚料理」。どれほど良い素材でも、運び方や鮮度管理、調理のしかたで味わいが変わるように、温泉も浴槽までの距離や配湯、温度調整、日々の管理で、色や香り、肌ざわりが変わる、という考え方です。ただし「源泉そのまま」であることを絶対的な基準にはせず、源泉の温度や湧出量、立地などの条件を踏まえて評価するとしています。

ひとことで言うと
- 何か: 浴槽に届いた湯を評価する温泉の格付けです。見るのは湯そのものと、その届け方や管理、そして湯をとりまく景観や歴史、文化です。
- 評価のしかた: 5つの指標で見ます。湯の個性、鮮度(提供方法)、希少性、安全性・衛生管理、環境・文化的価値です。
- 星: 三ツ星は「人生を変えるような湯体験」、二ツ星は「湯そのものを目指して訪れる名湯」、一ツ星は「近くに行けばぜひ立ち寄りたい湯」。星が伝えるのは、その湯を訪れる価値だとしています。
- 今年: 2026年は「創設0期」で、認定は三ツ星のみ。モデルケースとして選ばれた最初の三ツ星は、北海道から鹿児島まで15道県の21施設です。
- 来年から: 2027年から一ツ星・二ツ星の認定が始まり、インスペクターによる調査も2027年度から本格運用される予定です。
- 温泉鬼では: 21施設すべてが掲載済みで、湯シュランのプログラムページにまとめています。
湯シュランとは
運営は東京の一般社団法人Yuchelinです。代表理事は温泉家の北出恭子さん。制度全体を見守るのは評議員会で、温泉科学、温泉医学、公衆衛生、観光、歴史文化、地域振興など、いろいろな分野の有識者で構成されています。評議員会は、評価基準や選定のプロセス、制度の運営が公平で透明かどうかを監督・助言する役割で、個々の施設の選定や調査、審査、認定には関わりません。
信頼できると思えるルールが2つあります。施設は評価のためにお金を払いません。 そして、認定・評価の対象になり得る施設や事業者、評価に直接の利害がある自治体・団体からの協賛は受けないとしています。評価は、情報収集と分析、インスペクターによる現地調査、評価委員会による審査と認定(星の判定もここで行います)、そして結果の公表と発信、という流れで進みます。今回のアワードは環境省の後援を受けています。
評価の指標は次の5つです。
- 湯の個性: 温泉成分、pH、泉温に加えて、色、香り、味、浴感(肌ざわり)など、浴槽で実際に体験できる湯の特徴や状態。
- 鮮度(提供方法): 源泉から浴槽までの距離や時間、配湯方法、貯湯の有無、加水・加温・循環ろ過・消毒など、湯がどんな状態で届けられているか。ここでも「源泉そのまま」かどうかだけでは決めず、源泉ごとの条件を踏まえて見るとしています。
- 希少性: 地質的な成り立ちや湧出形態、源泉の特徴、入浴方法、立地環境など、その場所ならではの希少な価値や温泉体験。
- 安全性・衛生管理: 浴槽・浴場の清掃や衛生管理、入浴時の安全対策、関連法令の遵守など、安心して温泉を楽しむための管理体制。
- 環境・文化的価値: 自然景観や環境への配慮、地域の歴史・文化、湯を守り受け継ぐ人々の営み。
資金の一部は、温泉好きの人たちからのクラウドファンディングで集められました。CAMPFIREでのクラウドファンディングは2026年9月24日から10月20日まで。目標は「いい風呂」にかけた1,126,000円で、最終的に432人から6,493,026円、達成率576%が集まりました。2026年の「026」を「おふろ」と読んで、今年は「千年に一度の風呂イヤー」なのだそうです。資金は授賞式、公式サイト、デジタル版の湯シュランMAP、2027年の全国調査、運営費などに使われる予定です。
湯をお借りする心がまえ

湯シュランは、訪ねる人のための「湯シュラン流 湯をお借りする五か条」も公開しています(一般社団法人ツーリストシップ監修)。認定された温泉の多くは、地元の人たちが暮らしの中で守ってきた湯なので、「お邪魔します」という気持ちで、ということです。
出かける前には、施設のページで営業状況を確かめ(必要なら電話で)、現金と小銭、タオルと石けん・シャンプー、白いコップを用意して、浴場の広さに合った人数で行くこと。白いコップの理由は書かれていませんが、白なら湯の本当の色がよく見え、飲泉できるところでは味も確かめられる、というのが温泉鬼の考えです。そのうえで、五か条をまとめるとこうなります。
- お先にどうぞ。 場所や順番は地元の人に譲り、混む時間帯は避けます。
- 挨拶をする。
- その日の湯温を楽しむ。 熱い日もぬるい日もあります。調整したいときは地元の人に聞いてから。
- 当たり前を丁寧に。 浴室や脱衣所で撮影しない、かけ湯をして体を洗ってから入る、湯口や洗い場を独り占めしない、桶や椅子は洗って戻す、ごみは持ち帰る、体を拭いてから脱衣所へ。
- 地球の恵みに感謝と敬意を。
21施設の中には小さな共同浴場もあるので、どれも大切なことです。
三ツ星の21施設
初年度の今回は、湯そのものを目的に旅する魅力を伝えるため、特に希少性が高く、湯の個性を五感で感じやすい21施設が選ばれました。湯シュランはこれを、全国の素晴らしい湯を紹介していく「第一歩」としています。
湯シュランの公式の順番どおり、地方ごとに並べました。説明は、アワードで紹介された各施設の紹介をもとに温泉鬼の言葉で書いています。
北海道
- 豊富温泉 豊富町ふれあいセンター(湯治湯) 世界的にも珍しい、原油を含んだ黄褐色の湯。石油のにおいが強烈で、こってりとした浴感です。原油を肌に塗るという珍しい体験もでき、皮膚の療養を目的とした湯治の文化が根づいています。
- 登別温泉 第一滝本館 ひとつの宿に7つの源泉と5つの泉質。色も香りも肌ざわりも違う湯を、源泉かけ流しで入り比べられます。
- 帯広温泉 ローマの泉(家族風呂) 自家源泉のコーヒー色のモール泉。モール泉らしい香りに、アブラ臭と硫黄の香りが重なります。湯面に浮かぶ細かな白い泡は、湧きたての新鮮な湯であるしるしです。
東北
- 玉川温泉(秋田県仙北市) pH1.1という強い酸性の、珍しい塩酸系の湯で、肌にピリピリと痛みを感じるほどの刺激があります。濃さの違う浴槽、天然の岩盤浴、巨大な源泉「大噴(おおぶき)」、そして今も続く独自の湯治文化。
- 国見温泉 石塚旅館(岩手県雫石町) 思わず見とれるほど鮮やかなエメラルドグリーンの湯。硫黄とアブラのにおいが力強く、肌ざわりはぬるり。飲んでみると強烈な味に驚きます。
- 蔵王温泉 すのこの湯 かわらや(山形市) pH1.7の強酸性の硫黄泉が、足元のすのこの隙間から直接湧いてきます。生まれたばかりの湯は透明で、青くきらめいて見えます。
関東
- 法師温泉 長寿館(法師乃湯)(群馬県みなかみ町) 明治28年(1895年)に建てられた湯殿で、足元の玉石のすき間から42℃ほどの湯がぷくぷくと湧き上がります。
- 喜連川 早乙女温泉(栃木県さくら市) 硫黄とアブラの香りが立つ、塩分の濃いにごり湯。色は日によって緑から乳白色まで変わります。広い浴槽は毎朝すみずみまで掃除して、新しい湯で満たしています。
中部
- 奈良田温泉 白根館(山梨県早川町) 南アルプスの山深くにある、美容クリームのようにぬるぬるした湯。硫黄やアンモニアなどの個性的な香りがあり、色も日ごとに変わります。
- 加賀井温泉 一陽館(長野市) 炭酸ガス、鉄分、塩分をたっぷり含んだ濃い湯で、浴槽や床には温泉成分が厚く積み重なっています。内湯と露天はそれぞれ別の自家源泉で、どちらもかけ流しです。
- 奥蓼科温泉 渋・辰野館(信玄の薬湯・森の温泉)(長野県茅野市) 21℃の源泉が滝のように注ぐ「信玄の薬湯」。硫黄の香りと白い湯の花があり、加温浴槽との温冷交互浴や飲泉など、いろいろな楽しみ方ができます。
- 新津温泉(新潟市) 油田の掘削から生まれた温泉。強烈な石油のにおいに、臭素やヨウ素系の香りが重なり、湯面には油膜が浮きます。とろんとした濃厚な浴感です。
関西
- 有馬温泉 上大坊(神戸市) 海水より濃い、有馬の金泉。色は赤だしのようなこげ茶色です。約99℃の源泉を、竹を使った仕掛けで自然に冷ましてから浴槽に届けています。
- 花山温泉 薬師の湯(和歌山市) 炭酸ガスの力だけで噴き上がる、鉄分と塩分の濃い湯。浴槽のふちには析出物が層になっています。25℃ほどの源泉と加温浴槽を行き来する温冷交互浴ができ、飲泉もできます。
四国
- 祖谷温泉 和の宿 ホテル祖谷温泉(渓谷の湯・せせらぎの湯・やまぎりの湯)(徳島県三好市) ケーブルカーで下りた先の、渓谷の露天風呂。39℃ほどの新鮮な源泉を加温せずにたっぷり注いでいて、ほのかな硫黄の香りと、全身を包む細かな泡が魅力です。
九州
- 七里田温泉館 下ん湯(大分県竹田市) 36℃ほどの自噴泉で、国内でも数少ない高濃度の天然炭酸泉。浸かると無数の炭酸の泡が肌を包み込み、まるで天然のサイダーのようです。
- 塚原温泉 火口乃泉(大分県由布市) pH2の強い酸性で、鉄分の多い、透き通った緑色の湯。源泉が湧き出している伽藍岳の火口も見学できます。
- 別府温泉保養ランド(大分県別府市) 紺屋地獄の浴槽の底から、湯と一緒に天然の鉱泥が湧き出します。濃い硫黄系の泥と、きめ細かいクレイ系の泥。野趣あふれる露天風呂で泥湯に浸かれます。
- 岳の湯温泉 豊礼の湯(熊本県小国町) 温泉の成分と光の作用で生まれる、珍しい「青い湯」。コバルトブルーの湯に浸かりながら、涌蓋山を眺められます。
- 地獄温泉 青風荘(熊本県南阿蘇村) 浴槽の底から、酸性の硫黄泉が勢いよく自然に湧き出します。白くにごった湯で、源泉が湧き上がる振動が足元から伝わってきます。200年以上続く湯治の文化があります。
- 尾之間温泉(鹿児島県屋久島町) 玉石の間から湯がぷくぷくと湧く、珍しい足元湧出の共同浴場。pH9.8の透明な熱い湯で、硫黄の香りと、驚くほどのぬるぬる感があります。
これから
2026年は湯シュランにとって「創設0期」で、今回は三ツ星のモデルケースを知ってもらうための発表という位置づけです。2027年からは二ツ星・一ツ星の認定が始まり、原則として立場を明かさずに施設を訪ねるインスペクターの調査も、2027年度から本格運用される予定です。2027年は調査対象をさらに広げるとのことなので、次の発表も楽しみです。
21施設すべてが温泉鬼に
リストの施設はすべて温泉鬼に掲載していて、地図上の場所や設備、写真や温泉分析書の情報があるものはそれも見られます。1つのページにまとめたので、地図で眺めたり、近くの施設から巡るルートを考えたりしてみてください。
プログラム湯シュラン三ツ星の21施設を、地図と湯シュランの公式の順番で。
温泉鬼は湯シュランとは提携していません。21施設のみなさん、おめでとうございます。そして、湯を何より先に置くという、私たちも大切にしていることを形にしてくれた湯シュランに感謝します。公式のリスト、評価の考え方、各施設の紹介はyuchelin.orgへどうぞ。
出典
- 湯シュラン Yuchelin 公式サイトofficial— 三ツ星21施設の一覧と各施設の紹介、湯をお借りする五か条
- 湯シュランとはofficial— 魚料理のたとえ、5つの評価指標の定義、三ツ星・二ツ星・一ツ星の意味、評価の流れと評価委員会、評議員会の構成と役割
- 「湯シュランアワード2026」三ツ星認定21施設を発表しましたofficial— 初年度にこの21施設を選んだ理由と、今回を「第一歩」とする位置づけ
- CAMPFIRE: 温泉選びの新基準「湯シュラン」を創設したい!official— 創設0期と2027年からの一ツ星・二ツ星の認定、協賛を受けない相手、クラウドファンディングの目標、支援者432人、支援総額6,493,026円、資金の使い道
この記事を書いた人
Slava Minamoto(温泉パスポート)新しいタブで開きます
Onsen Oni創設者。日本の温泉に魅せられ、観光地だけでなく、知られざる個性豊かな温泉をもっと多くの人に届けたいという想いで活動しています。